マンガに限らず「読み物」というのは、読み手の感情次第で幾通りもの姿を持ちますが、こと本作品に関しては言えば「読者の育ってきた環境で色んな感想を持ち得る作品」だと思います。
2010年~2015年に渡ってデザートで連載されていた『たいようのいえ』という少女漫画で、一般的に言われている少女漫画という括りとはまた少し違う、少し複雑な家庭事情なんかもあり、本作品を読んだときは「虹のようなマンガだな」と思いました。
というわけで今回は、なるべくネタバレ無しで『たいようのいえ(全13巻)』を紹介します。
あらすじ
コミックス1巻
幼い頃、両親が離婚してしまい、父親と暮らすことになった真魚は、近所の中村家に住む家族と仲良くなっていきました。そのうち中村家夫婦が交通事故で無くなってしまい、3人兄弟の下2人は親戚と暮らすことに。温かかった中村家も、ついに長男の基が1人で暮らすだけとなってしまいます。
それから数年が経ち、高校生になった真魚を待ち受けていたのは「父親の再婚」で、再婚相手とその連れ子が家に転がり込んできました。それを受けて真魚は「この家に自分の居場所はない」と考え、幼馴染の基と一緒に暮らすことになります。
しっかりとした設定
コミックス1巻
少女漫画というのは、現実とファンタジーの境目で構成されることが多く、登場するのが普通の人間であることが多いせいか「なんでそうなるの?」と思ってしまうようなストーリーが展開されるケースも多いじゃないですか?現実の世界を描いているのに、非現実的だと言うか・・・。
本作も端的に言えば「親が再婚して家に居づらいから、幼馴染の家に転がり込んだ」という初期設定があり、社会人の男と女子高生が一つ屋根の下で一緒に暮らすという「ドラマみたいな話」から始まるものの、様々な状況が説得力を持っているような気がするんです。
例えば、実の父親が「実の娘が家に居なくても、なんら困らない」という人間だったら?例えば、基が「居場所を無くしてしまった真魚に、両親を亡くした当時の自分を重ねてしまったら?」と考えると、意外と無くもないのかなぁと思うんですよね。
初期設定だけを聞いたときに、世間一般論からすれば「はしたない」とか「犯罪スレスレ」という声も出そうですが、読み終わる頃にはそんな感想は持たないんじゃないかと思います。
家に居場所が無いという感覚
私自身は一応、家庭円満な方だったと思いますので、本作のような「義理の母」がどうだとか、家に帰らなくても実の父親が全く心配しないという状況を見ても、まるでドラマの中の世界のように感じるわけですけど、誰しもが「自分の立場に置き換えて考えられる」というのが本作の醍醐味です。
それも「幸か不幸か」という次元の話じゃなくて、ちゃんと「家族と向き合えているか」という部分について、何かを思わせる描写がとても多いと思います。もし、読者の人の中に「些細なことがキッカケで意固地になってしまい、家族との距離が遠ざかってしまっている」という人がいれば、そういう人にこそ読んで欲しい作品ですね。
家族とは?
コミックス1巻
多くの人が当たり前に体験してきているようなことが、真魚にとっては初めての経験だったりもして、すごく新鮮な気持ちで読み進められます。感じ方は人それぞれでしょうけど、当たり前に与えられていた「家族愛」に気付けたという人もでてくるのではないでしょうか。
真魚と基の2人は血の繋がりこそないものの、よっぽど本物の家族っぽいんですよね。それが羨ましくもあり、少し悲しくもあるっていう・・・。読み進めていくに連れて、なんとも言えない感情が巻き起こることでしょう。
2人の距離
コミックス1巻
恋愛漫画の真骨頂ということで、もちろん恋愛要素も織り込まれています。真魚の気持ちが徐々に変化していく様子が巧みに描かれていて、素直だけど不器用な感じが多くの読者からの共感を得そうな感じがしました。
複雑な家庭環境が根本にあるからアレですけど、恋愛漫画としても非常に秀逸です。恋愛なのか家族愛なのかの判断が付かなかったりして、気持ちを打ち明けていいものなのかどうか、もし打ち明けたとして相手にその気が無かった時の今後の生活はそうなるのかなど、中身は完全に純愛物語だと言えるでしょう。
最初は居候という立場もあって遠慮しがちな一面もあった真魚が、少しずつ素直になっていく様子だったり、同情という色眼鏡で見られたくないという思いから基の家を去ろうと思ったり・・・。真魚の行動一つ一つの一生懸命さに胸を打たれるんですよね。
物語の行方
真魚と家族
コミックス3巻
最初は真魚に感情移入していることもあり「とんでもねー父親だな!」と思いますが、物語が進んでいくに連れて、徐々に「あれ?そうでもないのかな?」と思ったりもして、とりあえず当初の想像とは雲行きが大きく変わっていきます。
ケンカなんかでもそうですけど、片方側の言い分しか聞いてないとそっちの味方になってしまいがちですし、特にこれくらいの年齢の頃は例え家族でもすれ違いは多いものです。個人的には非常に大きな見所だと思いますね。
基と家族
一方で基にも「以前のようにまた兄弟全員で揃って、この家で暮らしたい」という思いがあり、そのストーリーの行く末も気になるところです。基もまた、真魚から多くのことを教わり、弟・妹と向き合っていく姿が描かれていて、ここには家族というものの本質が描かれているような気がしました。
真魚と基
コミックス4巻
最初は基にとって「妹のような存在」でしかなかった真魚が、どのような存在に変わっていくのかも大きな見所と言っていいでしょう。おそらくですけど読者のほとんどが本作を読み進めていくうえで、心から「真魚には幸せになって欲しい」と願うようになっていくはずなので、2人の一挙一動から目が離せなくなると言っても過言ではありません。
結末に関しては賛否両論あるかとは思いますが、意表を突かれた感こそないものの、まとまり良く仕上がっているのではないでしょうか。結ばれるかどうかは別にして、すごく温かい気持ちになれることは間違いないでしょう。
「たいようのいえ」の由来
個人的にはここにもグッときました。家族を表現するうえで「太陽」というのは定番中の定番で、特に目新しさはないにも関わらず、ちゃんとした意味を持っているというのが120%伝わってくるというか、しっかり考えたうえで付けられたタイトルだというのがメチャクチャ伝わってきます。
何て言えばいいのか上手くわかりませんけど、物語を最後まで読んだときに、本作品のタイトルが「たいようのいえ」で本当に良かったと思いました。
最後に
非常にハートウォーミングなお話なので、反抗期の人や些細なことで家族と喧嘩してしまた時に読むと、家族に対して優しく接することができるようになるんじゃないかと思います。
切なくも甘く、最初から最後まで息継ぎを忘れさせるくらいの疾走感です。温かい気持ちになりたいときは、是非読んでみてはいかがでしょうか?