私は1度読んだマンガを何度も読み直す人間ですが、そのほとんどが「結構な時間が経過してから」という場合です。
1度知ってしまったストーリーをもう1度読み返すことについては「あのときの感動を再び体感したい」とか、何かしらの想いがあって読み返すのですが、1度目は気付かなかった描写や伏線に気付くことができる場合も少なくありません。
しかし、そういう意味とはまた異なった意味で「読み返したい」と思う作品・・・いや、そうではないですね。「1度では理解できない複雑な心理戦」を繰り広げるマンガがあるんです。その作品は「1度目はただ漠然と読み進め、2度目は少し考えながら楽しむ、3度目は徹底的に考察しながら読み進める」という、何段階にも渡って楽しませてくれるマンガなんですよ。
というわけで今回は、私が愛してやまない白熱する心理戦を描いた『嘘喰い(全49巻)』というマンガについてご紹介します。
※若干のネタバレがあります。ストーリーの全貌は明らかにしないよう配慮していますが、簡単なギャンブルの説明や私自身の感想について記載していますので、ネタバレされたくないという方はブラウザバック推奨です。
あらすじ
概要
コミックス 第1巻
通称『嘘喰い』と呼ばれる斑目貘が、数々のギャンブルに破格のお金のみならず命までも投じ、すべてを手に入れようとする物語です。元々はパチンコ屋さんで会っただけの梶隆臣という人物と共に、見ているだけでも身震いしてしまうようなギャンブルの数々に挑戦していくのですが、あまりにも危険な橋を渡っていくその様子は、まさに圧巻と言えるでしょう。
雰囲気としては『カイジシリーズ』や『ライアーゲーム』なんかに近いものがありつつも、裏の探り合いという面では頭1つ飛びぬけているんじゃないかなと思います。私の中では「ありそうでなかったマンガ」の代表作ですね。
基本スタイルは「勝負の中で相手のイカサマを見破り、それに気付いていないフリをして最終的には出し抜く」というものや「純粋な心理戦で高度な読み合いの末、相手に勝つ」といった展開が繰り広げられます。果たして、嘘喰いは最終的に何を掴むのか・・・必見です。
賭郎の存在
コミックス 第7巻
ストーリー内には『賭郎』と呼ばれる「賭郎会員のギャンブルを、あくまで中立の立場で仕切る組織」があり、例えば「命を賭ける」と言って勝負したとして、負けた側が「命なんか賭けてないよ」と、しらばっくれるのを防止しています。
そのため、拳銃を持ったヤクザの集団を瞬殺できるくらい、賭郎は強い人たちばっかりです(中には一部、例外もいますが)。この賭郎がいることで、心理戦の応酬に『バトル要素』も絡んでいるのが、嘘喰いの大きな魅力なんですよね。
読んでもらえたら分かると思いますが、主人公のバトル能力がほとんどゼロと言ってもいいくらいショボいので、そのあたりの誘導も心理戦で制していくことになります。これが、メチャクチャ奥が深いんです。
ちなみに本作品では「織田信長も命を賭けた勝負に負け、賭郎に命を取り立てられた」という設定みたいですよ。
白熱するギャンブル内容
ババ抜き
コミックス 第5巻
「ババ抜きって、あのババ抜き?」って思った人もいるでしょうが、ババ抜きって運の要素ももちろんアリなんですけど、相手の表情を読み取ったりすることで非常に高度な心理戦になったりもするんです。
「持ってる2枚のうち、どちらかがババ」という状況下で「どちらかのカードを相手から取りやすいようにする」というだけでも、心理戦の始まりになるわけですから。
何度かテレビで見たことがあるんですけど、メンタリストの名で一躍有名になったDaigoさんなんかは、ババ抜きもメチャクチャ強そうですよね。まして本作で描かれているババ抜きは何十億もの金銭に加えて自身の命を賭けたデスマッチです。普通に考えたら、表情や態度に出ないわけがないと思います。
それを巧みに描いているのが本作です。もうね、ババ抜きだけでこんなに熱く書けるマンガなんか他にありませんよ。トリックというか伏線というか、とにかく内容が複雑なので、2~3回読み直してようやく理解しました。
上記画像を見る限りだと、全く意味がわからないと思います。「カード見てんじゃん!」って思いません?これ、全貌を知ったらニヤけずにはいられないシーンですので、ぜひとも読んでいただきたいです。
【詳細ネタバレ記事はコチラ↓】
【嘘喰い】頭脳戦の真骨頂!ババ抜き対決を振り返ってみよう【ネタバレ】 – はてなの果てに。
迷宮
コミックス 第8巻
ペンと紙だけを使って、相手の作った迷路のようなもの(迷宮)を攻略する対戦型のギャンブルになります。これに近い感じのボードゲームが昔あったような気がしますけど、気のせいでしょうか(キングレオだったかな?)。
もちろん相手は必勝法のようなものを持っているのですが、それの攻略の仕方がなんとも秀逸です。理解出来たら非常にスッキリすること間違いないでしょう(私は3、4回読み直して、ようやく理解しました)。
なにより秀逸なのが、ギャンブルの賭けているものの内容ですね。発想がぶっ飛んでると言わざるを得ません。実はこれ「思い出を賭けてほしい」と言われています。勝てば何百万~数億円の金銭が得られるのに、負けたら「とある日付の思い出を語る」というだけです。
世の中に、そんなうまい話ってあるんでしょうか。・・・あるわけないですよね。ちなみに思い出を賭けて失うものは、とりあえず『命』ではありません。最終的に命を失うことになるかもしれませんが・・・。
ストップウォッチ
コミックス 第15巻
誰しもストップウォッチを手にしたら「10秒ちょうどで止めてみよう」とかやったと思います。それが普通にできるようになってきたら、今度は画面を見ないで挑戦してみたりして。嘘喰いの世界では、それすらも命を賭けたギャンブルになるんです。
しかも、そこで用いられたのが『ファラリウスの吠える雄牛』と呼ばれる、紀元前に使用されていた拷問器具だと言うんですから、スリリングな闘いになるのは必然でしょう。「負けたらどうなるか」という恐怖の部分が容易に想像できるというのは残酷ですね。
これとタイムウォッチを使ったギャンブルとなれば、内容は大体の想像がつくのではないでしょうか。「どっちが誤差を少なく、時間を当てることができるか」というシンプルなものです。ただでさえ難しいのに「負けたら焼かれる」という恐怖心を抑えながら正確な秒数を計るって・・・無理でしょ。
ちなみになんですが、この話は内容が非常にわかりやすく、1回で理解できました。でも、単純なようで随所に秀逸な伏線が張られていたりするので、最後まで夢中になって読み進めてしまうことは間違いありません。
この話では「負けた時にどうなるか」が手に取るようにわかるので、自己投影しているとメチャクチャ怖いです。そのくらいスリリングな戦いも、嘘喰いの大きな魅力と言っていいでしょう。
【詳細ネタバレ記事はコチラ↓】
【嘘喰い】ストップウォッチを使ったデスマッチ!「迷宮のミノタウロス 雄牛の子宮」を振り返ってみよう【ネタバレ】 – はてなの果てに。
業の櫓
コミックス 第20巻
1~10個の珠を握って、自分の数と相手の数の合計数を当て合うというギャンブルです。これ、内容がめちゃくちゃ深いです。裏の裏の裏・・・みたいな戦い方が複雑すぎて、普通の人ならワケわかんなくなると思います。
よほど頭のいい人が時間を掛けて読まないと、意味がサッパリわからないんじゃないかと思いますね。あ、もちろん紙とペンも必要かと。それだけ複雑な戦いなので、わかったときは何とも言えない爽快感みたいなものが味わえるでしょう。
この勝負をするにあたって、あらかじめ両者の血を抜いてあるのですが、相手に当てられてしまうと「相手の血液を自分の体内に入れなければならない」というルールが、またすごいんですよね。同じ血液型だとしても、なんらかの拒否反応を起こして死んでしまうらしいですよ(本当かどうかはわかりません)。
これは純粋な心理戦になりますが、暴力禁止とそうでないフロアが存在するため、その辺の探り合いもまた心理戦です。いわゆる「ギャンブルに勝って、勝負に負ける」じゃ話にならないので、それをも含めた相手との闘いが非常に面白く描かれています。
この話は何度読み返したかわかりません。本当に理解できませんでした。「なんかよくわからないけど、すごい」としか言えないというか・・・。なので、理解した時はめちゃくちゃスッキリしましたね。
バトルシップ
コミックス 第27巻
『バトルシップ』と呼ばれる「画面上に隠れている船の場所を当てるゲーム」での対戦です。こういうゲームは実際にありそうですけどね。っていうか、実際にありますよね。
相手が指定してきたゲームということで、すぐさま「相手がこの勝負に慣れている」ということや「相手を搦めとる何か(イカサマのようなもの)が隠されている」という読みなど、序盤から見所が満載です。
わかりやすい伏線、両者の腹の探り合いなど、こちらも非常にシンプルな内容になっているので、内容自体はすぐに理解できますし、それでも「なるほどねー」と思わずにはいられない描写がいくつもあります。
最終的に、相手のよりどころ(イカサマのようなもの)が判明した時は、メチャクチャ気持ち良かったです。伏線もしっかり張られてたのに気付けなかったのは悔しかったですけど(というか、1回で気付ける人なんているのだろうか)。
プロトポロス
コミックス 第31巻
ハンター×ハンターでいうところの『グリードアイランド』のような、マンガ上でのMMO RPG『プロトポロス』を舞台に、ゲームの世界で王を目指します。「奴隷→市民→一般職→上級職」と立場を上げていかないとなりませんが、それらを卓越した頭脳で一気に駆け上がっていく姿は、見ていて非常に気持ちがいいです。
特筆すべきは『あっち向いてホイ』ですら、高度な心理戦になるということでしょうか。相手の思考の裏を取る方法など、勉強になりますよ(できるようになるとは言ってない)。ちなみに、この『あっち向いてホイ』ですが、上記画像に映っている全員が結託して、嘘喰いただ1人を倒しにきていた場面なんです。それが、なぜか全員同じ方向を向いています。というか、同じ方向を向かされています。
私のような頭の堅い人間は「ほぼ確率勝負」なんて考えてしまいますけど、嘘喰いからしてみたら、それは全然違うんでしょうね。これに関しては「漫画だから成功した」とも言えるような感じは否めませんが、説明を聞くとどこか納得してしまう・・・そんな感じの戦いです。
(2016/11/07追記分)
コミックス 第40巻
プロトポロス編のラストを飾る『エアポーカー』が面白すぎたので、別枠で感想を書きました。水の中でのルール不明のカードバトル、しかも賭けるのは空気というメチャクチャ面白い設定です。
早い話が「水の中で行うギャンブルで、お互いが持っている空気を賭けて勝負し、溺れ死んだ方が負け」という、わかりやすくて怖いギャンブルになります。読んでないという人は、今すぐにでも読んでいただきたい。本当に面白いですよ。
【エアポーカーの感想はコチラ】
【嘘喰い】嘘喰い面白すぎ!エアポーカーって発想が天才的だと思う件【ネタバレ】 – はてなの果てに。
ハンカチ落とし
コミックス 第45巻
いよいよ物語も大詰め!!・・・なのか?クライマックスっぽい雰囲気が漂っていますが、注目の勝負内容は「ハンカチ落とし」です。
内容は至ってシンプルなもので「相手がハンカチを落としたタイミングで振り向けばOK」というもの。気付くのが遅ければ遅いだけ相手に有利になりますし、振り返ったタイミングでハンカチが落とされていなければペナルティという分かりやすいルールとなっています。
こんなシンプルで駆け引きの「か」の字も無さそうなゲームでも、高度な腹の探り合いが行われていますよ。早く続きが読みたいっす。
2018/02/19 最終巻が発売し全49巻にて完結
遂に嘘喰いが49巻で完結しました。無駄に引き延ばした感もなく、終わり方としては「もうちょっと読みたかった!」と思わせる余韻のある終わり方で、抜群に上手い魅せ方だったと思います。
個人的には30巻以上続く漫画で、特に中だるみのようなものを感じずに最初から最後まで楽しませてくれた作品って考えると、ドラゴンボール、スラムダンク、嘘喰いって言っても過言じゃないほど夢中になりました。
最終決戦が近くなっていくにつれて「あるキャラが実は生きてましたー」的な展開を迎えることもなく、終わりが近いような気はしていましたが、まさか49巻で終わるとは…。メイウェザーみたいですね(笑)
あくまで勝手なことを言わせてもらうと、昔スラムダンクを読んでて「なんで最後がダンクじゃないねん」って思いましたが、嘘喰いも「あんた、嘘つきだね」で終わって欲しかったです。
最後に
嘘喰いはギャンブル好きや心理戦が好きな方には、間違いなくハマるマンガだと思います。相手との腹の探り合いなんかが秀逸に描かれているので、推理モノなんかが好きな人にもいいかもしれません。
ただ、内容が難しすぎるので、その辺りで読者層は選びそうですが、基本的に心理戦が好きな人って「複雑な描写」が好きな人ばかりだと思うので、大丈夫ではないでしょうか。
私は全く理解力はありませんけど、メチャクチャ楽しめています。読んだことの無い方は、ぜひ手に取ってみてください。以上、是非ともオススメしたいマンガ『嘘喰い』のご紹介でした。