私が大好きな「嘘喰い」から、今回はババ抜き対決を振り返ってみようと思います。みなさんもトランプで遊ぶ際、1度はババ抜きを経験したことがありますよね?それも最初から最後までクリーンな確率勝負ではなく、「こっちがババだよ~」などの揺さぶりをかけたことが1度はあるのではないでしょうか。
本作で描かれているババ抜きは、それらを超越した次元で展開されていると言っても過言ではありません。とにかく高度な駆け引きの応酬が堪能できると言っていいでしょう。
というわけで今回は、嘘喰いのコミックス4巻~に渡って描かれている「ババ抜き対決」をもう1度、振り返ってみようと思います。
※ネタバレあるので、閲覧注意です。
対決のキッカケ
物語は序盤ですから、貘が所有している資金が少ない時点の話です。梶のギャンブル対決に立ち会った能輪立会人に「手っ取り早く金になりそうな賭郎会員との勝負を都合つけてほしい」と依頼し、そこで設けられたのが革命家・佐田国一輝とのババ抜き対決でした。
貘は「誰が相手でも自分が勝つ」という絶対的な自信があっての打診だったでしょうが、賭郎側としては「佐田国はいずれ屋形越えに挑んでくる」と考えており、貘をぶつけてその手の内を知ろうという目論見が隠されていたようです。
一方の佐田国は賭郎会員との勝負で荒稼ぎをしており、その勢いは他の会員たちにも知られているため、勝負したくても勝負できないような状況にいました。つまり、この対決は参加者全員にとって「願ってもない対決だった」と言えます。
対決までの流れ
5000万VS10億
貘の資金は5000万円で、佐田国が提示した賭け金は10億円。「5000万ぽっちの勝負なんか、する気にもならん!」というような恫喝をされ、あわや銃の撃ち合いに発展する寸前という場面で、梶がビビッて銃の引き金を引いてしまいます。
コミックス4巻
銃弾自体はあらぬ方向へと飛んでいき大事には至らなかったのですが、これが物語の展望を左右する大きな伏線になっているんですよね。この偶然とも呼べる行動が、貘にとっては嬉しい誤算へと繋がり、それによって勝利できたといっても過言ではありません。
一方で、「この時に梶が銃を撃っていなかったら、どうなっていたんだろう?」と思わせてくれるのも、本作の魅力なんですよね。本当に考察してもしきれないくらい奥深いマンガだと思います。
25億VS10億
賭け金の問題で折り合いがつかなかったため、貘は「人主を募る」という方法で、賭け金の補填を試みます。人主とは簡単に言えば「馬主」のようなもので、もし貘が勝負に勝てば、賭けた金額に応じてバックが得られるという制度です。
負ければもちろん出資した賭け金はパーになりますが、その時は「貘を煮るなり焼くなり好きにできる」という権限があるため、溜飲を下げるという意味合いでも残虐な行為が行われることは必至となっています。これを見たいがために参加する人主も多いとのことでした。
結果的に、かつて屋形越えに臨んだ伝説のギャンブラーとして名を馳せている貘には、大量の賭け金が集まり、その金額は25億に到達します。本来であれば佐田国も人主を募って足りない分の15億を補てんするのが筋ですが、貘が「この金額でも構わない」と言ったため、この条件で勝負が行われることになりました。
ハングマン
対決ルールには「ハングマン」と呼ばれるものが採用され、これは段階を刻みながら勝負をしていき、最終的には首を吊って死ぬという内容のデスマッチです。これは貘に出資した人主たちからの提案でした。
佐田国側としては「なんでそっちの人主に決められた内容で、こっちも勝負しなきゃなんねーんだよ」というところでしょうが、貘側も「だったら足りない15億を補てんしてから文句言え、バーカ」みたいな感じで、この内容に落ち着いた様子です。
ゲームの内容は「ババ抜き」に決定
コミックス4巻
ルールはデスマッチに決まりましたが、肝心の勝負内容については「ハングマンでやる幾つかのゲームの中から、極度の近眼である佐田国が目隠しをしながら選ぶ」という、いかにも怪しげな方法で「ババ抜き」に決まります。
「賭け金が足りないから人主を募る!」と言って、すぐさまモニター越しに賭郎会員たちと繋がるというデジタルな世界にも関わらず、ゲームの決め方が実にアナログです。・・・実はこれにも大きな理由が隠されています。
ちなみにハングマンとババ抜きの融合については、本来のジョーカーのポジションに1~5までの数字が描かれたカードを置き、その合計が11に達した者が死ぬというものになりました。最初に選ばれたババが5で、次が4、その次が1以外だった場合は、3連敗で死亡というあっという間の勝負です。
先に結果からおさらい
先に結果から振り返っていきますが、佐田国はイカサマをしていて設置されている6台のカメラで貘の手札を覗いているんですよね。ババ抜きで相手のカードが覗けたら負けるわけがありません。
しかし貘は勝負の中でそれに気付き、今度は逆にそれを利用して佐田国に勝つことになります。最後にカラクリを聞けば「あー、そういうことかぁ」となっても、実際に勝負の場で気付くというのは、マンガと言えどもすごいことです。
「そんな場面あった!?」と思うような細かい伏線だったり、あるいは「貘はどうやって佐田国のイカサマを見破ったの?」など、何度か読み返さないとわからないくらい複雑な構成になっているので、事細かく洗い直してみたいと思います。
簡単な勝負フロー
コミックス4巻
一回戦
- 先行・後攻を決めるジャンケンにて、佐田国が「後攻」を選ぶ
- 配られたカードは貘がババを含む3枚、佐田国が2枚
- 貘が1枚引いて、ペアが成立。残りカードは貘がババを含む2枚、佐田国が1枚
- 佐田国が迷うことなく正解を引き当て勝利。
- ババの数字は5だったため、貘が首吊りまで5工程近付く
二回戦
- 一回戦と逆になるため、佐田国が「先攻」になる
- 配られたカードは貘が4枚、佐田国がババを含む5枚
- お互いにペアを成立させ、貘が1枚、佐田国がババを含む2枚の段階で貘のターン
- 貘がババを引き2枚、佐田国が1枚で佐田国のターン
- 佐田国が正解を引き当て勝利
- ババの数字は4だったため、獏が首吊りまで合計9工程近付く
三回戦
- 貘が「先攻」になる
- 配られたカードは貘が4枚、佐田国がババを含む5枚
- 貘がカードを引かずに20分間も長考したため「毎回カードを引くのは1分以内」というルールが追加される
- 獏がババを引き、佐田国がそれを引くことなく勝利
- ババの数字は1だったため、次に貘が負けると死が確定する
四回戦
- 佐田国が「先攻」になる
- 配られたカードは貘がババを含む2枚、佐田国が1枚
- 初めて佐田国がババを引く
- 貘が正解を引き当て勝利
- ババの数字は3だったため、佐田国が首吊りまで3工程近付く
五回戦
- 貘が「先攻」になる
- 配られたカードは貘が1枚、佐田国がババを含む2枚
- 貘が正解を引き当て勝利
- ババの数字は4だったため、佐田国が首吊りまで合計7工程近付く
六回戦
- 佐田国が「先行」になる
- 配られたカードは貘がババを含む4枚、佐田国が3枚
- 互いに正解を引き当て、獏がババを含む2枚、佐田国が1枚で佐田国のターン
- 佐田国がババを引く
- 獏が佐田国のカードを覗き込みながら正解を引き、貘の勝利
振り返り
佐田国の反応の遅さ①
「梶が銃を誤って発砲した際のリアクションが遅かった」という理由から、どうやら貘は勝負するより前から佐田国が持つおかしな雰囲気に気付いていたようです。
読み返してみましたが、銃を発砲した際に佐田国が「……」といっているコマこそあったものの、それが伏線になっているとは気付けないという人がほとんどだと思います。
コミックス4巻
一方で勝負前にゲームの内容を決める際、わざとらしく目隠しをし始める佐田国に対して、何かしらの違和感を持った読者も多いことでしょう。貘はこのときに不敵な笑みを浮かべていますが、恐らく佐田国が仕掛けてくるイカサマについて、この時点で既に目星が付いていたと思われます。
「目ぇ悪いんだ……」の一言が、なんとも意味深ですね。「目が悪いんじゃないくて、むしろ見えてないんじゃないの?」とでも言いたげです。
佐田国の反応の遅さ②
コミックス4巻
【一回戦のチャート1】の場面ですが「先攻と後攻をどうやって決めるか」という話題になった瞬間、不意打ちのようなカタチで貘がジャンケンを仕掛けます。このとき、傍から見ていると佐田国が後出しのようになっているのが分かるでしょうか。
前項にも書いた銃の発砲に対する反応や、今回のジャンケンの反応などを見て、貘は「佐田国には、何が起こったのかまるで見えていない瞬間がある」と感じていたようです。
佐田国の反応の遅さ③
【一回戦のチャート5】の場面でババの数字を知ろうとする佐田国に対し、貘がわざと足元にババを落としたシーンがありました。この時の佐田国は、視線はカードに向いていたものの、すぐに拾おうとはせずに一呼吸おいてから拾っています。
この様子を見た貘は「一呼吸おいて拾った時が、見える位置のカメラに切り替わった」と仮説づけたようです。ハッキリ言ってこの場面については、伏線だと気付けるような場面ではありません。
イカサマ探し
コミックス5巻
そして「佐田国が行っているイカサマは、カメラを利用したものだ」という目星を付けた貘は、そのカメラの切り替わり方にどのような規則性があるのかを探り始めます。
相方の梶が「落ち着きがない」「イライラしている」と感じるくらい、ごく自然な方法で時間を計りながら、「カメラの切り替わり方には、どのような規則性があるのか」を探り始めたのが、ちょうど二回戦が始まるよりも前のことです。
更にこの時カードにわざと折り目を付けて、カードチェンジの時間も稼いでいることからも、非常にしたたかな人物像が浮かんできますね。
イカサマを見破り、制限時間を作らせる
- 佐田国が見ているカメラは全部で6台
- 規則正しく反時計回りに切り替わる
- 1台あたりの時間は約10秒
- 梶が銃を発砲した際に破壊されたカメラの分の、約10秒間が完全な死角になっている
イカサマの全貌を見抜いた貘ですが、今度は「それらを逆手に取って勝負する方法」を考え始めます。そして取った行動が20分にも及ぶ長考というわけですね。
普通に考えたら「この勝負に負けたら、死ぬかもしれない!」という状況まで追い込まれてからの長考ですから、なにも怪しい部分はありません。しかも「制限時間の取り決めは無かったんだから、ここでルールを追加するなら仕切り直しだ」という言い分もお見事です。
結果、立会人によって仕切り直しは認められずに「カードを引くのは1分以内」という条件が追加されます。ここまでが貘の思い通りに進んでいたと考えるだけでも、鳥肌モノじゃありませんか?
2つの疑問
制限時間「1分」
初めて読んだときに持った疑問が幾つかあります。そのうちの1つが「1分」という制限時間です。これを決めたのは夜行立会人であり、貘が意図する部分ではなかったので、「結果的に1分だったから良かったんじゃねーの?」と思う部分がありました。
・・・が、よくよく考えたら「制限時間が1分以上なら死角の10秒がラスト10秒に当たるように作為すればいい」んですよね。まぁそれを実行するためには、自分がカードを引くタイミングも緻密に計算してやらないといけないんでアレですけど、貘なら可能だと思います。
逆に、もし1分に満たない制限時間に設定されてたら相当ヤバかったことでしょう。ただ、20分も粘るような相手に対して〇〇秒というキリの悪い時間を設定する方が不自然な気もしますし、1分は妥当な気もします。万が一、30秒とかに設定されそうになったら、なんとかして1分以上に引き延ばしてたに違いありません。
なんでババじゃないってわかったの?
【五回戦のチャート3】の場面ですが、佐田国は自分でもどっちのカードがババかを分かっていないような状況で、獏にカードを引かせています。「なんでそれを引いた貘が、それがババじゃないと知り得たのか」という疑問です。
これに関しては「ハッタリだったのかなぁ」と思っていたのですが、どうやらそうでもなさそうで、分かりやすく言うと「ババだろうが正解だろうが、関係なかった」みたいですね。
コミックス5巻
上記画像は、五回戦が終わって佐田国が持っていたババと思われるカードを、立会人が拾おうとしたシーンです。このとき、貘も自身が持っていたカードを丸めて投げ捨てたのですが、この時点で「本当に貘が正解を引き当てたかどうか」については、どうやら謎のようでした。
というのも、どっちがどっちのカードなのかを分からなくするために、貘も同じようにしてカードを捨てたという見方ができると言っていいでしょう。この時に立会人の中で「カードの中身を確認しよう」という意図があったかどうかは不明ですが、知ったところで関与はできないでしょうし、非常に上手くできた流れだと思います。
そして勝負の中では、死角のカメラに切り替わった瞬間に貘は勝ちを宣告し、佐田国は負けを認めました。この時点で佐田国は「貘が勝ったって言ってるんだから、俺は負けたんだろう」的な感じになっているんでしょうね。
もし貘がババを引いていたとしても、それを指摘できるのは10秒後になるわけで、逆に怪しいような気もしますし、少なくとも佐田国は現時点で「イカサマが貘にバレているとは思っていない」わけですから、次で勝つ気マンマンっていう・・・改めて読み返しても面白いです。
梶がカメラを中途半端に破壊していなければ・・・?
次に思ったのが「梶があそこでビビッて銃を発砲していなければ?」「梶がカメラを完全に破壊していたら?」という部分です。「ビビったからって発砲するか?」みたいな話もありつつ、これによってカメラが破壊されていなければ、相当しんどかったんじゃないかと。
更に梶のナイスプレーはここだけではありません。「完全な破壊ではなく、中途半端な破壊になっている点」で、「完全破壊されていたらそこに切り替わることはなくなり、5台で切り替わることになったんじゃないの?」と思いました。
完全破壊ではなかったからこそ、そのカメラにも切り替わって10秒間の完全な死角ができたわけですから、もしこれが無かったらと仮定すると多分うまくないような気がします。
コミックス5巻
例えば6台のカメラがフルで稼働していたとしても、1台のカメラで見ることができる範囲は決まっているので、それを把握さえしていれば上記画像のようにカメラの死角にカードを持って行けば、佐田国は「どちらがババか」を知ることができません。
ただし、これはあくまで「次に切り替わるカメラは完全死角のカメラ」であるため、そこに誘導するのが本来の目的です。貘は「ここで50%の勝負をされていたらヤバかった」というようなことを言っているので、やはり梶のナイスプレー無しでは厳しい戦いだったように思います。
とは言いながらも、実際に佐田国がどのようなイカサマをしているのかを見抜き、そこでたまたまあった「梶のナイスプレー」という材料を使用しただけで、これが無きゃ無いでも貘が別の形で勝ったんでしょうけどね。
最後に
1度読んだだけじゃわからなかった部分も、2回3回と読むと新たな発見ができるマンガ・・・それが嘘喰いだと思っています。特にみんなが知っている「ババ抜き」をここまで熱い戦いに仕上げているあたり、この作品が持っている熱量は計り知れません。
きっと読み返すことで新たな発見があるかと思うので、みなさんもぜひ読み返してみてはいかがでしょうか。