私が大好きなマンガ「嘘喰い」から、今回は貘ではなく梶が主役の「ファラリウスの雄牛を使ったギャンブル」を振り返ってみようと思います。
このギャンブルはストップウォッチを使った勝負でルール自体も非常に分かりやすかったこともあり、いつもの複雑な勝負とはまた違った魅力を見せてくれました。
いつもは非常に深い部分での駆け引きや腹の探り合いが見所ですが、この回に関しては「取っ付きやすさ」のようなものを感じましたね。いつもは考えすぎて疲れたりする部分もあるんですけど、普通に楽しめたという感じでしょうか。
シンプルでいて、しっかりとした伏線も張られているので「嘘喰いって複雑すぎてイマイチなんだよねー」という人にとっても楽しめる内容と言っていいでしょう。
というわけで今回は、嘘喰いの中のスピンオフストーリー「迷宮のミノタウロス 雄牛の子宮」についての振り返りです。
※ネタバレがあるので閲覧注意です。
ファラリウスの雄牛とは?
コミックス15巻
古代ギリシア(紀元前6世紀頃)で設計された処刑のための装置です。青銅で作られた牛の中は空洞になっていて、人間が入れるようになっています。これは目新しい死刑方法として採用された装置なのですが、その中に人間を入れて下から火で炙るという、非常に残酷な装置と言えるでしょう。
牛の頭部には空洞と外を繋いでいる真鍮の管があり、処刑されている人間の叫び声が牛の鳴き声のようにして聴こえるんだとか。この残酷な装置を作らせたのが、当時の僭主であったファラリウスで、その名をとって「ファラリウスの雄牛」と言うんだそうです。(Wikipedia参照)
このギャンブルの目的
梶が雪井出との0円ギャンブルに負けて、アリバイを取られてしまったことにより、無実であるにも関わらず「奥多摩廃屋猟奇殺人事件」の犯人に仕立てあげられてしまう可能性が出てしまいました。
このアリバイについては貘が回収してくれているのですが、そんなことを知らない梶は「貘さんが何とかしてくれるかもしれませんが、僕はそんなことに頼らずに解決したいんです」と言い、自らの力で何とかしようと決意します。
その真犯人は貘からのメールにより、大手金融会社ハヤマルナローンの社長である羽山紀明だと思われていましたが、梶が実際に接触を試みようと羽山宅に潜入すると、息子の羽山郁斗が犯人であることが判明しました。
本来であれば事前準備通りに郁斗をハメて、郁斗が犯人である証拠を回収する手筈だったのが、思わぬ邪魔が入ったことにより、郁斗と梶、そして梶の仲間でもあるカールを加えた3人でデスマッチをすることになったのが、このギャンブルをするキッカケとなっています。
ルール
- 挑戦する順番を決める(郁斗、カール、梶)
- 最初の出題者が、合図と共にストップウォッチをスタートさせる
- 自分の好きな時間で合図と共にストップウォッチをストップさせる
- ストップ後、最初の解答者が自分の体内時計で計った予想タイムを答える
- この時の「実際のタイムー予想タイム」で出る誤差を一旦ストックする
- プレイヤーを交代し、2番目の出題者と2番目の解答者で同じことを行う。ただし、ここでは1回目の正解よりも長いタイムにしなければならない(上限は+10分)
- プレイヤーを交代し、3番目の出題者と3番目の解答者で同じことを行う。ここでも、2回目の正解よりも長いタイムにしなければならない(上限は+10分)
- このとき、ストックされたタイムの実行権は「解答者としてトータル的に最も優秀だった人間」に与えられ、実行するか次の対決に引き継ぐかを選択できる
- 引き継いだ場合は再び最初の組み合わせに戻り、1番目の出題者が2回目の出題を行うが、3番目の出題者の1回目の出題タイムよりも長いタイムを正解にしなければならない。
- 実行された場合は、その時点で最も誤差(トータル)のあった者が全ストック分のタイムを「ファラリウスの雄牛」の中で焼かれる
※実行された場合は、それまでのストックタイムなどはリセットされる
※ピタリ賞の場合に限り、そのプレイヤーが実行権を握る。2人以上がピタリ賞の場合は持ち越し。
ギャンブルの流れ
【例題】
- 出題者→解答者:出題タイム→解答タイム:誤差
1ターン目
【流れ】
- 郁斗 →カール: 9分58秒→ 9分59秒:誤差 1秒
- カール →梶 :11分00秒→10分11秒:誤差49秒
- 梶 →郁斗 :15分17秒→15分32秒:誤差15秒
実行権はカールが持ち、ストックタイムは 1分05秒。ここでカールは実行権を行使し、梶が 1分05秒間ファラリウスの雄牛に入る。
【振り返り】
コミックス15巻
元々、梶とカールは繋がっていて、事前に合図を決めていたんですよね。「右ヒゲをねじればYES、左ヒゲはNO」「鼻を歪ませる回数=数、首を鳴らす数=桁」という取り決めになっていました。
この通りにサインが出せれば、カールが出題するタイムは梶に筒抜けになるため、常に梶が実行権を握れる手筈になっていたのですが、ここで誤算が生じます。
この勝負に入る前にレオに羽交い絞めにされたことでカールが首を痛め、正確なサインが出せなくなっていました(ちなみにこれは、わざとサインを出さない演出だったらしい)。
梶は再度サインを出してもらうようにカールに要求するもカールがこれに応えず、結果的に梶はこのターン最大の誤差を出し、ファラリウスの雄牛に放り込まれることになります。
コミックス15巻
この時点では、梶がカールにタイムを教えてもらえるのに対し、カールは平場で勝負しなければならないため、その不満から「カールが梶を裏切ったように見えた」のですが、実はそうではありませんでした。
上記画像では梶にキツイ言葉を浴びせていますが、しっかり左ヒゲをねじって自分の発言を否定していますし、梶を一旦ファラリウスの雄牛に放り込んだのも「上限タイムを増やさないため」という狙いがあったようです。
まぁ1分ちょっとだったら耐えられそうですし、それで仲間割れしていると見せかけることができるのであれば、かなり上等な作戦ですよね。
2ターン目
【流れ】
- 郁斗 →カール: 8分32秒→ 8分32秒:誤差 0秒
- カール →梶 :18分32秒→13分11秒:誤差 5分21秒
- 梶 →郁斗 :21分34秒→20分04秒:誤差 1分30秒
実行権はカールが持ち、ストックタイムは 6分51秒。ここでカールは実行権を行使せず、ストックは次に繰り越される。
【振り返り】
まずカールの体内時計の正確さに脱帽です。8分32秒もの時間を正確に計れるというのはすごいですね。
一方で梶は、1分とはいえ焼かれたことが影響しているのか、5分以上の誤差を出してしまいました(後に梶は「これはわざと大量の時間をストックしておくための演出だった」と言っています)。ちなみにここでもカールは、梶に合図を出していません。
そして郁斗は例のイカサマを使用(現時点では不明)しているので、正確なタイムはわかっていたんじゃないかと思います。最高のシナリオとしては、誤差を5分20秒にしてカールに実行させるのがベストなんでしょうけど、これまでの経験から「7分もあれば人間は死ぬ」という判断をしていたのかもしれませんね。
ここでカールは、迷わずに持ち越しです。仲間割れしたと見せかけていますが、実際には水面下でしっかり梶と繋がっており、その梶を7分も焼くわけにはいかないと判断したんでしょう。
そして次のターンにて梶にピタリの合図を出し、合計ストックタイム分を郁斗に背負わせることを画策していたんだと思われます。
3ターン目
【流れ】
- 郁斗 → カール:25分42秒→27分11秒:誤差 1分29秒
- カール → 梶 :26分00秒→26分00秒:誤差 0秒(+5分21秒)
- 梶 → 郁斗 :31分51秒→31分51秒:誤差 0秒(+1分30秒)
梶と郁斗が誤差0秒で同率につき、合計ストックタイム( 8分20秒)は次に繰り越される。
【振り返り】
コミックス15巻
30分近い時間を体内時計で計るとなると、さすがのカールも1分半の誤差を出してしまいます。このターン、唯一自分のチカラで答えているのはカールだけなので、この誤差は普通に優秀ですね。
ここでカールはピタリのサインを出し、それを受け取った梶がピタリ賞を出して実行権を握ります。この時点で本来焼かれるのは、2ターン目で5分以上の誤差を出している梶なのですが、ピタリ賞を出したことによって焼かれる対象はカールか郁斗になります。
カールの誤差は「0+1分29秒=1分29秒」で、郁斗は「1分30秒+???」という状況なので、ここで郁斗がピタリ賞を出さない限り、郁斗が8分20秒焼かれることになってました。しかし、ここを郁斗もピタリ賞で回避します。これは例のイカサマによるものです。
そしてこの時点で、梶は「郁斗は何かやっているんじゃないか?」という疑問を持ち始めます。
4ターン目
【流れ】
- 郁斗 → カール:41分02秒→36分51秒:誤差 4分11秒
- カール → 梶 :41分12秒→41分03秒:誤差 9秒
- 梶 → 郁斗 :45分42秒→45分42秒:誤差 0秒
実行権は郁斗が持ち、ストックタイムは12分40秒。ここで郁斗は実行権を行使し、カールが12分40秒ファラリウスの雄牛に入る。ここでカールは退場。
【振り返り】
コミックス16巻
カールが4分11秒もの誤差を出したことにより、カールのトータル誤差が5分40秒。そして郁斗が梶&カールのイカサマを疑い、カールがサインを出すのを防止したことにより、両者の間で詳しいサインのやり取りができなくなってしまいます。
なんとか「鼻ピク1回」のサインを出したものの、それが1秒なのか10秒なのか1分なのか10分なのかがわからず、梶は「郁斗の出題+1秒」だと判断しますが、実際は「郁斗の出題+10秒」だったことにより、梶が9秒の誤差を出してしまい、梶のトータル誤差は5分30秒です。
ここで郁斗は再びピタリ賞を出しますが、ここはピタリ賞じゃなくて誤差3分~4分くらいでも良かったんですよね。気の緩みなのか、ドヤ顔がしたかったのか、あるいは自分が何かしているということが梶にバレたのに気付いて開き直ったのかは不明ですが・・・。
結果、これまでの2~4ターンのトータル誤差が1番多いカールが、ストックタイムの合計12分40秒を背負い、ファラリウスの雄牛で焼かれます。乱入してきた伽羅の働きかけもあって何とか一命は取り留めたものの、勝負の続行は不可能ということで退場です。
5ターン目
【流れ】
- 郁斗 → 梶: 7分10秒→ 7分26秒:誤差16秒
- 梶 → 郁斗: 8分50秒→ 8分50秒:誤差 0秒
実行権は郁斗が持ち、ストックタイムは16秒。ここで郁斗は実行権を行使せず、ストックは次に繰り越される。
【振り返り】
5ターン目が始まる前に、梶は没収されている携帯電話の返却を要求しており、この時点では「貘にメールで一言入れておく」という行動を示唆していましたが、実際はこの行動が大きな伏線になっています。
これは自分が好タイムを出すための策ではなく、郁斗のイカサマを妨害するための作戦だったんですね。
コミックス16巻
さらに、郁斗の発言に苛立ちを隠せないフリをして鏡を割っていることにも注目です。正直、上にも書いた携帯電話のくだりや鏡を割るくだりが伏線になっているなんて、ほとんどの人が気付かないと思うんですよ。
あまりにも自然な行動として溶け込んでいますし、これは秀逸すぎます。ちなみにこの行動は、郁斗が行っているイカサマを自分の物として利用するための策になっています。
コミックス16巻
ここで梶は「郁斗の体内にペースメーカーのようなものが埋め込まれており、それで正確な時間を計測している」と判断し、レーザーポインタによってそのイカサマを封じると宣言しています。
しかし結果的に郁斗はピタリ賞を出すことになり、梶の予想は外れることになるのですが、これは梶にとっても「レーザーポインタを出すための口実」というだけだったようですね。
郁斗のイカサマを自分の利にするため、重要な意味を持つレーザーポインタを出すのに、ままで見当違いなことを言って郁斗を油断させたあたり、完全なる策士と言えるのではないでしょうか。
6ターン目
【流れ】
- 郁斗 → 梶:14分50秒→12分12秒:誤差 2分38秒(+16秒)
- 梶 → 郁斗:18分50秒→15分56秒:誤差 2分54秒
両者の合計誤差が同一のため実行権は持ち越しになり、合計ストックタイムは 5分48秒。
【振り返り】
ここで梶が仕掛けます。携帯電話に仕込んでおいたモスキート音を発動し、郁斗のイカサマを封じることに成功。これによって郁斗が3分近い誤差を出し、奇跡的に同じタイムになりました。
ここで梶は「郁斗が実力で好タイムを出していたら、5分そこら焼かれる覚悟はあった」と発言しているので、ただならぬ覚悟を持って臨んでいたことが伺えます。
同時に「郁斗のイカサマはその席にある」とイチャもんを付けて、郁斗と席を交換しておいた点も秀逸な伏線ですね。
7ターン目
【流れ】
- 郁斗 → 梶:27分49秒→27分49秒:誤差 0秒(+2分54秒)
- 梶 → 郁斗:30分20秒→30分 0秒:誤差 20秒(+2分54秒)
実行権は梶が持ち、合計ストックタイムは 6分 8秒。ここで梶は実行権を行使し、郁斗が 6分 8秒ファラリウスの雄牛に入る。ここで郁斗が死亡し、ギャンブルは終了。
【振り返り】
コミックス16巻
梶は予め割っておいたガラス、郁斗が使用していたモスキート音を発しているスピーカー、レーザーポインタを使用して、郁斗にしか聞こえないモスキート音を視覚化し、そのイカサマをそっくりそのまま利用してピタリ賞を出します。
一方で郁斗は梶が仕込んでいたケータイ電話から、スヌーズ機能によって絶え間なく発せられるモスキート音の妨害により、正確な時間を計り知ることが出来ずに20秒の誤差を叩き出し、ファラリウスの雄牛で焼かれ死亡です。
梶が大きく成長した戦い
この戦いで梶が本当に急成長したと感じた読者は、私以外にも多いハズ!最初のビル脱出のときなんか何もできないキャラでしたし、ジュースカードの時は結果的には勝ったものの、まだまだ半人前という感じが大きかったですよね。
懲役ギャンブルでは、貘に特攻部隊として送り込まれただけなのかもしれませんが、結果的には雪井出に軽くひねりつぶされていますし・・・。そんな梶がこの戦いでは非常に成長し、頼もしい存在になったと言えるでしょう。
個人的な疑問
コミックス16巻
上記画像は6ターン目の終了時点、梶が「5分くらい焼かれるのを覚悟していた」と発言していますが、これは「郁斗がモスキート音で正確な時間を判断するのを、梶が携帯のモスキート音でかぶせて妨害していても、郁斗の誤差がいくらになるかは不確定要素だったから」だと思うんです。
梶は16秒+2分38秒のトータル誤差2分54秒で、郁斗がこれを上回る誤差を出さなかった場合は「2分54秒+郁斗誤差」分の時間を、梶が焼かれていたことになります。結果的に同タイムで並んだから良かったものの、梶が言う「5分くらい焼かれるのを覚悟していた」というのはハッタリだったんでしょうか?
郁斗は最後、6分8秒を耐えられずに死亡していますが、その原因は「カールのネクタイ」にあると梶は指摘しています。多分「ネクタイが管に詰まっていて、息が吸えない」ということを指しているんだと思うのですが、もし梶が5分そこら焼かれるような流れになっていた場合、どうするつもりだったのかがわかりません。
コミックス16巻
自首を促したものの、「6分を耐え、次で梶を殺す」という判断をした郁斗に対し、梶は「何考えてんだ死ぬぞ」と言っていました。個人的には5分も6分もそこまで大きく変わるような気もしませんし、ネクタイが詰まって息ができないということを知ってたら尚更です。
いくら郁斗を妨害しても3分近い誤差を出すという可能性は、決して高かったとは言い難く、もし郁斗の誤差が梶よりも1秒少ない2分53秒だった場合、梶が5分47秒を焼かれていたと考えると、「ネクタイを取り除いてくれ!」と物言いをするつもりだったのかなぁと(だとするとスッキリしない)。
「郁斗にプレッシャーを与えるための強気の発言だった」と考えるのが筋のような気もしますが、万が一そこで自分が負けていても何とかなっていたという自信のようなものがないと腑に落ちないんですよね・・・。もし誰か「こういうことじゃね?」というのがあったら、教えていただけると嬉しいです。
最後に
個人的には、嘘喰いのバトルの中では仕組みが分かりやすくて大好きなギャンブルの1つです。モスキート音ってものが何かを知っている人なら、驚きと納得で楽しめたんじゃないかと思います。
しかし伏線の張り方は本当に秀逸で、何度読み返しても新たな発見があると言っても過言ではありません。「久々に読み返そうかなぁ」と思った人は、今がチャンスです。ぜひ読み返してみてはいかがでしょうか。